八名地区に伝わる昔話です。あなたの地元にも今まで知らなかった昔話が伝えられてきたことが分かりますよ。
   
 八名の昔話
   
富岡地区
 
   ()   (なき)   (いし)  

 昔のことです。富岡の大原のほとりに、人目をさけて住む女の人がおりました。小さな子どもがありましたが、姿(すがた)かたちは美しく、たちいふるまいも上品で、とてもただ者とは思われません。うわさによると、都からのがれてきた身分の高い人の奥方(おくがた)だろうということでした。そのころ、都では戦争が続いているときでした。
 ある日、女の人は、子どもを()かして、川へ洗濯(せんたく)に行きました。すると、どこでどうかぎつけたものか、敵方(てきがた)追手(おって)が来て、わずかのすきをねらい、子どもをさらって逃げ出しました。子どもの泣き声にびっくりした女の人は、気ちがいのようになって後を追っかけましたが、今の夜泣石の所まで来たとき、追手の者は、その子どもをさし殺して逃げていってしまいました。

 女の人は、殺されたわが子をだきしめて、7日7夜も泣きくずれていましたが、とうとうそこで石になってしまいました。それから夜になると、その石が悲しそうに泣くのがあたりの村々に聞こえるようになりました。

 そうして、今でも、子どもが夜泣きをして困るときは、この石にお(がん)をかけると、不思議(ふしぎ)に泣かなくなるといわれています。