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昔のことです。富岡の大原のほとりに、人目をさけて住む女の人がおりました。小さな子どもがありましたが、姿かたちは美しく、たちいふるまいも上品で、とてもただ者とは思われません。うわさによると、都からのがれてきた身分の高い人の奥方だろうということでした。そのころ、都では戦争が続いているときでした。
ある日、女の人は、子どもを寝かして、川へ洗濯に行きました。すると、どこでどうかぎつけたものか、敵方の追手が来て、わずかのすきをねらい、子どもをさらって逃げ出しました。子どもの泣き声にびっくりした女の人は、気ちがいのようになって後を追っかけましたが、今の夜泣石の所まで来たとき、追手の者は、その子どもをさし殺して逃げていってしまいました。
女の人は、殺されたわが子をだきしめて、7日7夜も泣きくずれていましたが、とうとうそこで石になってしまいました。それから夜になると、その石が悲しそうに泣くのがあたりの村々に聞こえるようになりました。
そうして、今でも、子どもが夜泣きをして困るときは、この石にお願をかけると、不思議に泣かなくなるといわれています。 |
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