八名地区に伝わる昔話です。あなたの地元にも今まで知らなかった昔話が伝えられてきたことが分かりますよ。
   
 八名の昔話
   
富岡地区
 
   お  と  ら  (ぎつね)  

 雨生(うぶ)山の中腹を、富岡から三ケ日へ通じる道がうねうねと続いています。もとはもっと(せま)く、曲がった坂道でした。宇利峠の近くに、きれいな沢水が音をたてて流れています。昔おとら狐がこのあたりに住みついていました。この狐は、夜になると道に出てきて、夜道を通る人にいたずらをして、おどろかしたり困らせたりしていました。
 ある寒い晩のことでした。ひとりの男が、三ケ日で買ったミカンを車に積んで、宇利峠を越え、やれやれと下り坂にかかりました。いつもならば、車が走って下るのに、今夜はなぜか重くて進みません。そればかりか、だんだん谷の方へおされるようです。男は不思議(ふしぎ)に思って、後をふりかえってみておどろきました。積んできたミカンの箱は一つもなくなり、車の上には、おとら狐がすました顔して乗っているではありませんか。きもをつぶした男は、車をほうり出して、どこをどう走ったか、走りに走り、むちゅうで家にかけこみました。

 男はとうとう狐につかれてしまいました。後で家の者があぶらげを持って、おとら狐のところへ行ってみますと、沢の上のお堂には、空になったミカン箱がおいてあり、その上に狐の足あとがくっきりとついていました。

 それから、「おとら狐におまいりしたら、絶対にうしろをふりかえらないようにしなければいけない。ふりかえると狐につかれる。」と言われるようになりました。