八名地区に伝わる昔話です。あなたの地元にも今まで知らなかった昔話が伝えられてきたことが分かりますよ。
   
 八名の昔話
   
小畑地区
 
  山の神のおためし  

 小畑の延命寺(えんめいじ)のよこの沢を200mほどのぼったところに、山の神様と愛宕社(あたごしゃ)がおまつりしてある。その近くに、もとは祢宜(ねぎ)さまのお(こも)り堂と、村の衆のお籠り堂が建っていたが、いまは()ち果ててしまって、囲炉裏(いろり)とわずかな石がきが名残りをとどめているだけである。ここには、(きゅう)の11月初申(はつざる)未明(みめい)に、(かゆ)によって来年の作物の豊凶(ほうきょう)(うらな)う行事が今も伝えられている。
 この行事は、いつの頃からはじまったものか、記録もないので(さだ)かではないが、もともとは、延命寺が主宰(しゅさい)していたようである。延命寺の開山(かいざん)が、貞和(じょうわ)4年(1348)であるから、600年以前から伝えられているものと考えられる。後に、延命寺が焼け(寛政(かんせい)6)たことがあって、その後は、唐土(からつち)神社の氏子総代(うじこそうだい)がつとめるようになったようである。

 占いは古式にのっとって行われる。氏子総代はまず、祭りの7日前から家族と別生活にはいる。食物も別火でたき、精進潔斎(しょうじんけっさい)をする。祭りの前夜になると、唐土神社にお(こも)りをし、夜半までかかって祭りの準備をする。この時の食事には歯朶(しだ)(はし)を用いる。また、この祭りには最初から最後まで女人禁制(にょにんきんせい)が守られている。

 祭壇(さいだん)は、山の神と愛宕社の二つの(ほこら)が並んでいる前に、()の子を()いて設けられる。御幣(ごへい)は30cm位のものを、平年は12本、閏年(うるうどし)は13本供える。御神酒(おみき)は竹の(つぼ)に入れる。竹の壺は、女竹(めだけ)の径2cmのものを、節と節の間をうすく(けず)り、ここを曲げて10cmくらいの壺が背中合わせになるように、(わら)でしばって作る。小豆(あずき)(めし)は、米5合、小豆1合、甘酒(あまざけ)(こうじ)1合とを混ぜ、たいたものを特製(とくせい)(うつわ)にもりわけて両祠(りょうほこら)(けん)じる。また、お白餅(しろもち)といって、白米を水に(ひた)したものを小さな(うす)でついて作り、お供えする。特製の器というのは、(わら)(うず)()き状に巻き、ところどころをしばって(さら)のような形に作ったものである。占いの(かゆ)を入れる(つぼ)は、素焼(すや)きで、径20cm、高さ30cmほどのもので、江戸時代以前から使われていたといわれる。

 いよいよ占いにはいる。土中約50cmの深さの(あな)()められていた壺をとり出し、あらかじめ用意されている沢の流れの上流から、壺をよくゆすり、3回に分けて流すのである。3回に分けるのは、1回目は早生(わせ)、2回目は中生(なか)、3回目は晩生(おく)のそれぞれの豊凶(ほうきょう)を占うためである。米糀(こめこうじ)(つぶ)の残り具合で、水稲(すいとう)の出来を占い、小豆(あずき)の残り方で畑作の出来を見、壺の中の水の量で雨の量をはかるのである。また、流れの上流を村の(かみ)の方、下流を(しも)の方と見たてて占うのである。これを「山の神のおためし」と言っている。

 おためしがすむと、壺の中をよく洗い、前夜用意しておいた小豆飯(あずきめし)糀飯(こうじめし)を壺に入れ、中に水を8分目ほど入れる。それをまたもとの穴に埋め、平たい石で(ふた)をしてから上を小石や土で盛り上げる。こうして来年の祭りの日までそのままにしておくのである。

 占いの判断は、村の元老(げんろう)古老(ころう)たちの合議(ごうぎ)によってなされ、発表される。今まで聞いた変わった占いといえば、日露(にちろ)戦争の前年には血綿(ちわた)のようなものが入っていたとか、関東大震災(だいしんさい)の前年にはモグラのようなものが入っていたとか、太平洋戦争の前には、カニが、5,6匹入っており、その中の1匹だけがようやく生きていたとかいうようなことがある。今年(昭和57年11月)のおためしにはモグラが2匹も入っていたそうだが、何事もなければよいがと心配されている。

 なお、この山の神へは月参(つきまい)りといって、名家(めいか)戸主(こしゅ)二人1組が交代で、月の初申(はつざる)の未明にお洗米(せんまい)を持ってお参りする。神域(しんいき)では土足(どそく)()いではだしで参拝(さんぱい)するしきたりになっている。

 祭りの日には、お神酒(みき)、お白餅(しろもち)のほか、甘酒など飲み放題(ほうだい)のふるまいがある。昔は、中宇利、富岡の方からもお参りがあって大変にぎわったが、このごろでは小畑の内々(うちうち)の行事となっている。