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昔、たいそう立派な兄妹がおったそうな。なにしろ、そんじょそこらにいるような美男、美女とはわけがちがう。とてつもなくきれいな兄妹だったそうじゃ。だから、二人に似合うような、よい結婚相手は見つからん。兄の方は、どうせ嫁をもらうなら妹くらいの人をと心ひそかに思い、妹の方も、どうせいくなら兄くらいの男の人をと考えていた。
こんな具合だから、いつまでたってもいい人が見つからん。
「よし、それじゃ、日本全国を回って探してこようじゃないか。そうすりゃ、必ずいい人が見つかる。」
そういって、二人は東と西に分かれて旅立っていったそうだ。
ところが、どこへいっても見あたらぬ。よし、この人ならと思ってみるが、妹よりはちとおとる。きっと、もっといい人がいるにちがいないと思ってしまうからいけない。妹の方も同じ思いである。そうこうしているうちに、長い長い年月が過ぎ去ってしまった。
ある時、風のたよりに、すばらしく美しい娘が結婚相手を探しているという話が耳に入ってきた。もう男はいてもたってもいられない。すぐさま、娘に会いにとんでいき、一目見るなり気に入ってしまったそうじゃ。娘の方もそうであった。二人は互いに抱き合って、お前こそ日本一の嫁だ。あなたこそ日本一の婿さんだと言いながら、いつまでも離れなかった。
しかし、その後で、よくよく話し合ってみると、なんとまあ、二人はもとの兄妹であったそうな。兄妹で夫婦になったとは恥ずかしいと、二人は大変悔やんだそうな。でも、どうしようもない。
それならば、せめて、自分たちの姿が少しでも見えないようにと、しばの葉でも何でも使って隠れていようと思ったそうな。そして、道行く人にしばの葉をあげてもらい、なるべく姿を隠してもらうようにしたんだそうな。
ところによっては、石を積んで、才の神様の姿を隠すところもあるそうだが、この小畑では、しばの葉で隠すようにしているんじゃよ。
小畑の奥の堰堤から、秋葉道を800メートルほどのぼると吉川境に出る。その左側に樹齢100年は数えられる椎の大木の根本に、男女双同体で、片足を組み合わせ、肩を抱き、女は酒つぼ、男は盃を持つ才の神の石像がある。左側に天保15年建立と刻まれている。
才の神は、塞の神、障の神ともいわれ、悪神、悪疫の侵入を防ぐ神、性病、出産、良縁、妊娠を祈る神でもあった。
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