八名地区に伝わる昔話です。あなたの地元にも今まで知らなかった昔話が伝えられてきたことが分かりますよ。
   
 八名の昔話
   
小畑地区
 
  () つ 石 と 鬼 ば ば あ  

 むかし、小畑の六つ石というところに、怪力無双(かいりきむそう)(おに)ばばあが住んでいた。鬼ばばあは、小間(こま)使(づか)いの小僧(こぞう)を一人つれていた。ばばあが村に出てきて悪事(あくじ)を働くようなことはなかったが、村人たちは、「六つ石にゃあ、鬼ばばがいる。」と言って、こわがっていた。それで、夏のはじめの柴刈(しばか)りにも、六つ石だけには、行くことはなかったそうな。
 小僧はよく鬼ばばあに言われて、ふもとの村の店や百姓家(ひゃくしょうや)に米、(むぎ)味噌(みそ)などを買いに出かけていった。鬼ばばあは、小僧の買ってきた食べ物で、旺盛(おうせい)食欲(しょくよく)()たしていたそうな。

 小僧もやがて大きくなり、いつの間にか(こい)をする年ごろになった。いつも買い物に行く店の(むすめ)とよくなった。しかし、いつまでもあのばばあに使われていたのでは、わが恋も実らなくなってしまうと思った小僧は、何とかして()げだしたいものだと、ひそかにそのチャンスをねらっていた。けれども、ばばあはいっこうにその(すき)をみせない。それにもまして、小僧に対する気配(きくば)りは、なかなか(きび)しくなるばかりであった。

 ところが、天の助けか、ある日、ばばあが小僧に(さけ)を買ってくるように命じた。よし、()わせてその(すき)に・・・と考えた小僧は、できるだけたくさんの酒を買ってきた。そして、ばばあにどんどん酒をすすめた。そうとは知らぬばばあは、飲むほどに上機嫌(じょうきげん)になって、小僧のすすめる酒をぐいぐい飲みほしていく。そのうちに、さすがの鬼ばばあも酒に()ってすっかり気持ちよくなった。昼間の(つか)れも出たのであろう、やがて、グウグウといびきをかいて寝入(ねい)ってしまった。小僧は、この時とばかり、()をそっと()き消し、裏口(うらぐち)からこっそり出て、一目散(いちもくさん)にふもとをめざし、かけ下っていった。

 しかし、神通力(じんつうりき)を持つばばあのこと、これに気付(きづ)かぬわけはない。ぱっととび起き「小僧め!こしゃくな!この石にあたって死んでしまえ!」と、かけ声もろとも、手近にあった大岩を両手にかかえ、逃げていく小僧めがけて投げつけた。小僧も逃げるに必死(ひっし)、すでにだいぶ距離(きょり)もでき、そのうえ、暗闇(くらやみ)の中ではねらいも定まらず、あとを追って大岩は飛んできたが、小僧には当たらなかった。そして無事(ぶじ)村までたどりつくことができたそうな。
 そのとき投げた大岩は、もとの「六つ石」から、5、6百メートルも離れた山のふもと、奥谷沢の田んぼのくろにでんとすわっている。大岩には、鬼ばばあの指跡(ゆびあと)がのこっている。親指、人さし指、中指、くすり指、小指とあって、手のひらのはばが50センチメートルもある。どれほどの怪力(かいりき)のばばあであったことだろうか。
 その後、用たしができなくなった鬼ばばあは、村に姿(すがた)を現すこともなく、食べ物もなくなり、衰弱(すいじゃく)して、かみの毛も真っ白になって、いつともなく死んでしまった。そのむくろを見た人はないが、鬼ばばあは白蛇(しろへび)と化して、今もなお、あの六つ石あたりに住んでいると伝えられている。
  才の神のある吉川境を少し下ったところから左へ山道を400メートルほどのぼると、尾根の松林の中に
   六つの巨岩がある。