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大正4年に68歳で亡くなった,大脇のばあさまがしてくれた話である。
今は山犬はいなくなったが,昔はこのへんにもいて,人が追われるということがよくあったものだという。
おやじは北尾武助といって,甘酒売りをしておったが,ある日暮れ,お釜やくど(かまど)をかついで,日吉の方から帰ってきた。鳥原の弘法のところは,昔から日がかげるとすっかり暗くなる,せまい山道だった。ここへさしかかると後ろから山犬がついてくる。今にも飛びかかられるかと生きた心地はしなかったが,ふと気がついて,背負っていた塩をとり出して与えると,山犬はそれをなめて帰っていったという。 |
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