八名地区に伝わる昔話です。あなたの地元にも今まで知らなかった昔話が伝えられてきたことが分かりますよ。
   
 八名の昔話
   
庭野地区
 
   つ り が ね ぶ ち  

 ずっと昔のことです。庭野(にわの)のうでこき山の頂上(ちょうじょう)立派(りっぱ)なお寺があり,大きなかねつき堂が建っていました。
 ある年のこと,大地震(だいじしん)があって,お寺もかねつき堂もめちゃくちゃにこわれてしまいました。ところがふしぎなことに,つりがねはひとりでにころがり出し,かみなりのような地ひびきをたてながら,木や草をなぎたおして,ふもとの原川(はらかわ)までころがり落ちていきました。ころがっていったあとは,まっすぐな道ができ,落ちたところには大きな大きなあなんぼちができました。
 そこへ水がたまって深い深いふちになりました。それでだれ言うとなしに,このふちをつりがねぶちとよぶようになりました。このふちは底なしふちで,どこかの(みずうみ)にまでつながっており,いつごろからかこのふちに大蛇(だいじゃ)が住みついて,ふちの(ぬし)になりました。大蛇があばれると大雨が降り出します。また,雨が何日も降らなくて困るような時には,このふちの大蛇に(あま)ごいをすると,雨を降らしてくれるそうです。
 昔からあまり雨が降らなくて,原川の水がなくなるような時にも,このつりがねぶちの水は,少しも変わらないといわれてきました。ところが,何年も()つうちに,このふちに砂や石が流れこんで,少しずつ浅くなっていきました。
 ある時,若い人たちが大勢集まって,このつりがねぶちのかいぼりをやろうじゃないかと相談をしました。そこでいろいろな道具を持ちよって,ふちの水をくみ出しはじめました。ところが,いくらくみ出しても,ふちの水は少しも()りません。とうとう夕方になって,みんなくたびれて帰っていきました。その晩のことです。このかいぼりをした人たちは,みんな高い熱を出して()こんでしまったということです。
 このことを聞いた村人たちは,「これはきっと大蛇のたたりだろう。」と言って,おそれおののきました。それからは,つりがねぶちをかいぼりしようという人はいなくなったということです。
 このふちには,むかしからいろいろ不幸なできごとがあったそうです。ふちに落ちて死んだり,ふちにとびこんで死んだりする人がありました。今では,すぐそばの柿野(かきの)さんの家では,毎年お(ぼん)の晩に,ふちでなくなった人たちの供養(くよう)をしているそうです。