八名地区に伝わる昔話です。あなたの地元にも今まで知らなかった昔話が伝えられてきたことが分かりますよ。
   
 八名の昔話
   
一鍬田地区
 
   (てん) (のう) (さい)  

 旧暦(きゅうれき)の六月十三日,豊川の清流(せいりゅう)に夏の夜をいろどる天王祭(てんのうさい)が,毎年かいくら(ぶち)一帯で繰り広げられる。
 むかし,この地区に悪病が流行して多数の死者を出したり,豊川が氾濫(はんらん)して水害が出たりしたため,厄払(やくばら)いのため津島(つしま)神社のお(ふだ)を迎えて,津島まつりに似た行事をしたのが始まりだという。このおまつりは,二百年あまりの伝統があるといわれている。一時は中断されていたが,四十九年から復活して今日に(いた)っている。
 かいくらの川べりで,勇壮(ゆうそう)手筒(てづつ)や清流に()える金魚花火,祇園(ぎおん)囃子(ばやし)のひびきとともに,二(せき)の舟が川面(かわも)にこぎ出す。舟の上には,赤いちょうちんが「天」の字形にいくつかかざりつけられ,火がともされて,暗い水面にうかびあがる。ゆるやかにゆれるちょうちんの(ともしび)囃子(はやし)()が調和して,古き時代の絵巻(えまき)を見る思いがする。
 川の中ほどに進んだ舟は,やがて「天」の字のちょうちんをはずして,火をともしたまま,水面に流され,悪霊(あくりょう)ばらいをしてこの祭りは終わる。